『今、ターニチカがラウンジを出たよ。全員、配置についているね?』
尾張からのメールが全員に届く。
それをファインマートの雑誌売り場で立ち読みのフリをしながら確認する零時。
※ここからは、零時のスマホに届くメンバーからのメールで状況を知る構成。
『すてぃんぐ前のゆーのだよ。今、たーにゃんが基地から出てきたよー』
ユウノからのメールが届く。
ちょっとユウノさん、なんてところに隠れてるんですか!? と、零時が思っていると、
『あ、いま、すてぃんぐから、仲よさそうな男の人と女の人がでてきたよー。挨拶されちゃったー。なんだか楽しそうだねー。おもしろいことがあったのかなー。こんどれーじくん、いっしょにいこーよ!』
というメールが一斉配信されてくる。
『ダメだから! っていうか零時! そんなとこにユウノを連れ込んだら、神田川に沈めるから!』
アサノからのメールが速攻で届く。
『分かってます! っていうか、タチアナの監視をしてください!』
『混沌ノ黑天使:
ひさご通り入り口でターゲットを目視で確認』
七罪からの報告メールが届く。意外なことに割とノリノリだった。
『混沌ノ黑天使:
というかこの位置からだと、基地から出てくるところも、ユウノも見えてるけどね』
監視する範囲に対して、監視する人数が無駄に多かった。
『こっちからもなっちゃんがみえるよー、やっほー!』
『混沌ノ黑天使:
ターゲットはファインマートと反対方向に右折して直進中』
再び、七罪からのメール。
いきなり、道を間違えてるし! やはりタチアナだった。
だが、さすがはジャッジメント7。その行動も読んでおり、反対方向へ行った場合に備えて、そちらにはイルカが隠れている。
『バックアップ担当のドルフィンII、ターゲットを捕捉』
勝手なコードネームでノリノリのイルカだった。
『エマージェンシー! ターゲットが見知らぬ男に声をかけられている』
イルカからの連絡に慌てる零時。
『イルカさん、タチアナを守ってください!』
『エネミーは武器を所持しており、不用意に近づくのは危険』
武器を所持!? この日本で!? もしかして世界的頭脳だから狙われてるとか!?
イルカからのメールに慌てる零時だが、
『エネミーは武器を所持し、ポリスメンのコスチュームを着ている……実に怪しい危険人物である』
『それ、十中八九、っていうか、100%お巡りさんですから!』
『ターゲット、エネミーから道を聞き、進路を反転。ランデブーポイントへ向けて移動を開始』
どうやらお巡りさんが話を聞いて道を教えてくれたのだろう。
見た目が幼女だったのが幸いしたらしい。
零時が安心していると、
『エネミーが、我輩に向けて接近中……これより職質を受ける。通信、終了』
物陰にコソコソと隠れて、携帯を片手にタチアナを観察しているイルカはさぞかし怪しだろう。
お巡りさんが職質したくなる気持ちは分かる。
『諸君、このミッションで華々しくも散ったイルカの為にも、なんとしても作戦を成功させようではないか!』
尾張からのゲキが飛ぶ。
『混沌ノ黑天使:
ターゲットが通過。ファインマート方向に直進中』
タチアナは七罪の前を通過し、ファインマート方向へ移動しているらしい。
もしかして事務所に戻ってしまうかもしれないと思っていたけど、それは大丈夫そうだった。
あとは商店街をまっすぐ進むだけ。これならタチアナでもたどり着けるだろう。
『ファイマ前をタチアナが素通り! どうする、この先には誰も待機してないけど!』
コンビニの前で隠れていたアサノからの連絡が入る。
まさか、目的地を素通りするとは思っていなかったので、そこから先には誰も配置してなかった。
っていうか、コンビニへ買い物に出かけたのに、コンビニを通り過ぎるって、想定外にもほどがあるだろ!
『アサノ、ターニチカの気をひくんだ! 正体がバレないようにな!』
『わかった、やってみるわ!』
尾張からの指示に、アサノからの返事が届く。
零時はアサノがどうやって気をひくのか、ファインマートの中からやきもきしている。
(零時の位置から、物陰に隠れているアサノが見える位置関係)
「にゃああああん♡」
アサノのおかしな声が店内にいる零時にも聞こえてくる。
もしかして、猫の鳴き真似なのか? なんともアサノらしい残念な陽動だった。
もちろん猫の声には聞こえない。
タチアナは気にもとめず、ずんずん歩いて行ってしまう。
『アサノさん、真面目にやってください!』
『真面目にやってるわよ!』
「にゃーん、にゃーん! にゃふーーーーん! っていい加減に気付きにゃさいよ!」
最終的には普通に言葉になっているが、それでもタチアナは止まらない。
「にゃーーーーっ!! ファイマで新しいガジガジくん、新発売にゃ!!!」
もう、猫の鳴き声にすらなっていないヤケクソのアサノだったが、
「にゃにゃにゃ!? 今、猫さんの声が聞こえたぞー! ファイマで、ガジガジくん、新発売だと!? というか、ターニャはファイマに行くところだったのだー! 猫さん、教えてくれてありがとーなのだー!」
まさかのミラクルで、ファインマートに行く事を思い出したタチアナ。
いや、もう、どこから突っ込んでいいかわからないけど、結果オーライだった。
『タチアナがファイマに入ってきました。ドリンクコーナーの方に向かっています! 頑張れ、タチアナ!』
タチアナにバレないように、遠くから見守るしかできない零時。
とはいえ、コーラを買うくらいは流石のタチアナでもできるだろう。
最悪、いつも飲んでいる種類のコーラじゃなくてもいいし、なんならコーラじゃなくてもいい!
タチアナが自分の力で買い物をしてきたドリンクなら、それがなんでも受け入れよう。
と、お世話係らしく見守る零時(徐々にお世話係としての自覚に目覚めつつある)。
『たーにゃん、ふぁいてぃんぐだよー!』
『混沌ノ黑天使:
とりあえず、ファイマに着けばあとはお子様でも大丈夫でしょう』
『まったく、ハラハラさせるんじゃないわよー』
『ターニチカの成長の瞬間だ。零時くん、その目でしっかりと見届けてやるんだよ』
『はい!』
職質中のイルカ以外からのメールが飛び交う中、商品をカゴに入れたタチアナがレジへ向かう。
問題は支払いだったが、零時の電子マネーカード(Suica系)を持たせてあるから、お釣りの心配もないし、もう大丈夫だろう。
案の定、会計を済ませ、ビニール袋をぶら下げたタチアナが事務所の方向へ歩きだす。
『タチアナは事務所方向へ向けて歩き出しました! 僕は裏道で先回りして戻りますので、七罪さんとユウノさんは、基地までの誘導をお願いします!』
『混沌ノ黑天使:
はいはい』
『了解だよー!』
零時は、裏道を使って事務所に先回りしてラウンジで待機している。
しばらくして、タチアナ、ユウノたちが戻ってくる。
「わあ、たーにゃん、ひとりでお買い物に行ってきたの? すごいねー!」
「にゃふふ。ターニャは中学生のお姉さんだからな、お買い物くらいおちゃのこザーサイなのだ」
ユウノと話しながらラウンジに入ってきたタチアナを迎える零時。
「や、やあ。お帰り、タチアナ」
「おお、レージ。ターニャはいま戻ったぞー」
えらくご機嫌なタチアナ。
「あの、それで、僕のコーラは……?」
「コーラ? なんのことだ? ターニャが買ってきたのはもちろんこれだぞ!」
そう言って袋から取り出したのは大量のガジガジくん。
「ふう、新商品が沢山あって、持って帰ってくるのが大変だったのだー」
1つの偉業を成し遂げたように誇らしげなタチアナだった。
「え? ガジガジくん? コーラじゃなくて?」
「コーラ味は無かったぞ」
「いや、そうじゃなくて、僕のコーラを買いに行ったんじゃ……」
「レージ、おまえはバカか? コンビニはガジガジくんを買いに行くところだぞ? あ、これ、返すのだー」
電子マネーカードと一緒に受け取ったレシートを見ると、ガジガジくんだけで1000円近く使っていた。
散々時間を使った挙句、コーラも手に入らず、しかも1000円の出費。
徒労感しかなかった。
「はっはっは。まぁ、これくらいの損失で済んだのなら、ミッションは成功だよ」
「たーにゃん、がんばったねー! すごいすごーい!」
「アンタが買い物できるようになったなんて、ちょっとびっくりよ」
「まあ、お子様にしてはよくやったと言ってあげるわ。帰り道、基地の前を素通りしたのは大目に見てやるわよ」
零時以外はタチアナの偉業を褒め称える流れに納得がいかない零時。
「にゃはは。ターニャはお買い物のプロだからな、いつでも代わりに行ってきてやるぞー」
大量のガジガジくんを抱えてご満悦のタチアナ。
うん、もう絶対に買い物は頼まない。
というか、できるだけ真面目にお世話しよう。
そう心に誓う零時だった。