未公開プロット『ターニチカ、初めてのお買い物作戦』前編

 ※第3章の『タチアナとの試験勉強イベント』の前に挿入。

 2017年7月24日(月)

 タチアナがジャッジメント7に合流して2日後の昼過ぎ。
 つまりタチアナのお世話係になって2日が経過していた。
 零時は試験まで残り5日ということで、やや焦り始めているが、そこまで必死ではない。
 もちろんジャッジメント7のメンバーも零時が試験を控えているのは分かっているが、かといって気を遣ってくれるわけでもなく、いつも通りの無茶振りの日々。

 それでも、幸か不幸か、尾張が新世界体験の謎の解明に夢中になっているおかげで、ゲーム開発の作業が停滞しているのが救いだった。
 いや、それはそれで問題なんだけどね……と思わなくもない零時だが。

 普段の大学の授業ならともかく、試験とゲーム開発の両立はかなり厳しかったが、「軽い雑用程度であれば、試験勉強の気晴らしにもなるし」と思って、零時は事務所で勉強をしている。
(試験勉強をする上で、事務所だとインターネットが使い放題というのもポイントとして大きい)

 ただ、先日からタチアナのお世話係という新しい肩書きが増えていたのは誤算だった。
 今日も早速、
「レージ、ターニャは退屈だから、どこか遊びに連れて行くのだー! 勉強ばっかしてないで、海とかプールとか、遊園地に連れて行くのだー」
 と、零時に無茶振りを仕掛けてくる。
(タチアナ的には、お世話係の零時が勉強しているのが面白くない)

「いや、僕はお世話係は引き受けたけど、遊び相手になった訳じゃないし……」
 と、反論するが、
「レージ、オマエはワンちゃんのお世話をしたことがあるか?」
「まぁ、小さい頃に実家で犬を飼っていたことはあるけど、それがどうしたんだい?」
「ワンちゃんのお世話の中には、お散歩や、一緒に遊んだりすることも含まれているだろ? つまり、ターニャのお世話係もおんなじなのだー」
「そりゃ、まぁそうだけど……自分と犬を一緒にするのかよ」
「一緒じゃないぞ! ターニャの方がおねーさんだからな、余計手がかかるのだ!」
「お姉さんなら、手をかけさすなよ。っていうか、そもそもタチアナは僕の家庭教師になったんじゃないのか? なんで勉強の邪魔をするんだよ」
「ちっちっち、レージは甘ちゃんだなー」
「何がだよ?」
「カテーキョーシがどんなものか、あの後、セカイから説明を受けてあるのだぞ」
「尾張さんから……?」
 それはちょっと嫌な予感がする零時。
「そうなのだー。カテーキョーシとは、ガクセーをあまーい言葉でユーワクして、いろいろといけない遊びを教えてあげるセクシーなお姉さんのことだぞ?」
「それ、絶対に違うからね! それって、尾張さんが好きなタイプのビデオの話だから、絶対! っていうか、世の中の家庭教師をしている人にお詫びしなきゃいけないレベルの嘘だから信じちゃダメだって!」
「にゃ、にゃんと……セカイに騙されたというのかー!?」
「っていうか、自分から家庭教師をして勉強を教えるって言ってたのに、騙されるなよ」
「でも、ターニャはひーまーなーのーだー!」
 こうなるともう理屈ではなかった。
 駄々をこね始めるタチアナにトホホの零時。

 と、そこに尾張が現れる。
「おいおい、なにを騒いでいるんだぁい?」
「レージがターニャのお世話係をホーキするのだー。これは、ショクムタイアンなのだー。シャチョーのセカイからもしっかりと言ってやるのだー」
 社長の友人の娘から告げ口されるって、どうでも良いところだけは、変に社会人っぽいな。
 と、嘆息する零時。
「なんだい零時くん、ターニチカのお世話係は君の天職じゃないか。それを放棄するなんて、実に君らしくないねぇ」
 勝手なことを言ってくれる尾張だった。
「いや、お世話係自体はもう受け入れてるんですけど、今は試験前ですから、なんでもかんでもって訳には行きませんよ、実際」
「なんでもかんでもするのが、お世話係なのだー!」
 タチアナも譲らない。

「ちょっと零時くん、こっちに」
 尾張は零時を会議スペースまで引っ張っていきコソコソと話し出す。
「まぁ、君の気持ちも分かったよ。でもほら、この基地にいる以上、君はジャッジメント7のスタッフだからさ、俺の指示に従ってもらわないと、俺の格好がつかないじゃないか」
「そりゃ、まあ、分かりますけどね。でも、お世話係はアルバイトディレクターの範疇外じゃないですか、さすがに……そりゃ、こんな時期じゃなかったら頑張りますけどね」
「うん、君ならそう言ってくれると思ったよ」
 尾張としては零時がお世話係を本当に放棄すると面倒臭くなるので、零時のご機嫌も取ろうとする姑息な手段に出てくる。

「そこでだ、零時くん。君、今なにか必要なものはないかい? 例えば買ってきてほしいものとかさ」
 なんだろう? 尾張がご機嫌とりで買ってきてくれるのだろうか?
 そんな風に考える零時。
「まぁ、特にはありませんが……強いて言うならコーラとかですかね」
「よし、それならそいつをターニチカに買いに行かせようじゃないか!」
「え? タチアナに買い物をさせるんですか? でも、どうしてです? そもそも、あのタチアナが買い物に行きますかね?」
「その辺は、うまく誘導すれば良いんだよ。これはゲームだよ、みたいな感じでさあ。そうすればターニチカの気もまぎれるだろうし。それに、コーラならファイマで買えるだろ? この基地から歩いて数百メートル。ひさご通りの中だから道を間違う事もないし、まぁ大丈夫だろう」
「は、はあ……」
 確かに中学生ならなんの問題もないお使いだ。いや小学生や幼稚園児でもこなせるだろう。
 だが、あのタチアナだ。不安がないと言えば嘘になる。
 というか、不安しかない。

「なに、大丈夫だよ。だって君がこっそりと隠れてフォローするんだからさ」
「はあ? それじゃ、自分で買いに行った方が早いですよね!?」
「おいおい、子供自身にチャレンジさせ、成功体験を与えることで成長させる。これは子育ての基本だよ、君ぃ」
「僕が引き受けたのは、お世話係までです! 子育てなんて、荷が重すぎますから!」
 話がどんどんおかしな方向に行っていると危機感を覚える零時。
「はっはっは。君は良いパパになれると思うけどねぇ。だけどさ、ここでターニチカが多少なりでも成長してくれたら、君の今後のお世話係の仕事も、少しは楽になるんじゃないのかい? まぁ、君が幼女のお世話係に情熱を燃やしているっていうのならターニチカに成長して欲しくないかもしれないけどさぁ」
 いやらしく笑う尾張。
 なんとなく口車に乗せられている気はするが、言っていることには一理ある。
 でも、尾張のことだから面白そうだから言っているという可能性も否定できない。
「もちろんユーリーから預かっている大切なターニチカに万が一のことがあってはならないからね。ジャッジメント7で、ターニチカをがっちりガードする。もちろんバレないようにだ。名付けて『ターニチカ、初めてのお買い物作戦』だ!」
 ああ、楽しんでるだけだった。と納得する零時。

 それからしばらくして、ジャッジメント7総動員による『ターニチカ、初めてのお買い物作戦』が開始される。
 事務所からファインマートまでの各地点にメンバーが隠れて、タチアナのお買い物を監視する。
 連絡は携帯で取り合い、目的地のファインマートで客のふりをして待っているのは零時。
 全員の連絡は、急造のメーリングリスト(タチアナ以外)で取り合うことになっている。
 メールなのは七罪がガラケーなのでRAIN(LINEみたいなアプリ)が使えないから。

 ※以下の、メンバーが尾張から説明を受けているシーンは回想演出で表現した方がテンポいいかも。

「どうして私までこんな事を? 全く手のかかるお子様とバイトさんね。はは、死ねば良いのに」
 と、七罪はかなり不機嫌ながらも一応は協力してくれることになる。
「たーにゃんがお姉さんになるお手伝いができるなら、ゆーのはうれしいなー。あ、でも、たーにゃんが急にお姉さんになっちゃうのも、なんかさみしーよ」
「あのお子様に限って、それはないでしょ。っていうか、中学生が1人でコンビニに行くとか、当たり前すぎて成長もしないんじゃないの?」
「仲間の成長を見守る。それもまた仲間の役割。前回の『初めてのお留守番作戦』は我々に甚大な被害をもたらしたが、タチアナもあれから成長しておるはず! このミッション、必ずや成功させてみせようぞ!」
 どうやら零時がバイトを始める前にも同じような事をしていたらしい。
 甚大な被害が出るお留守番ってどんなだよ? と思う零時(内容は未定)。

 なんだかんだで、仲間思いでノリだけは良いメンバーなので、全員が前向きに協力する。
 そもそも『◯◯◯◯作戦』というノリが好きなのだから無理もない話だ。

次項 未公開プロット『ターニチカ、初めてのお買い物作戦』後編へ続く
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