男達の回想わ終っていた。
さあて、ジャッジメンの活動を語る上で、俺達3人が初めて顔を合わせたあの出来事を外すことは出来ないだろうねぇ。
無論である。
ウム、あの出来事のことか? ワタシにとっては忘れたくても忘れることはできんよ。
クックック……『彷徨える爆乳学園長像』事件、あれは実に傑作であったな。
何が傑作なモノか。お前達がワタシの教授用のIDをハッキングして、3Dプリンタを無断使用したモノだから、危うくワタシが犯人にされるところだったのだぞ。
はっはっは。だってあの最新型の3Dプリンタは、教授連中にしか使えなかったんだから仕方ないじゃないか。
左様。あの様な最新技術は、学生に開放してこそ価値があるというもの! それを一部の特権階級の教授達が独占しておったのだから、アレは正当な抗議行動である!
それに関しては一概に否定はできんが、お前達が1億2千万もする3Dプリンタでやっていたのはただの変態コスプレではないか。あの行動にそこまでの価値があったとは思えぬがな……
なんと! あの科学とアートと鬱屈した学生の燻る魂が融合した我輩たちのクリエェェェイティヴな活動を変態コスプレとな!? あれは現代版の学生運動であり、アナーキズムの再構築ともいうべき崇高な活動であるぞ!?
ナルホド……巨乳学園長の銅像の恰好をして、大学構内を疾走するというヘンタイ行為が学生運動というのであればそうなのであろうな。まぁ、あれだけ全力疾走をすれば、いい運動になるのは間違いないが。
あの最新型の3Dプリンタは、伸縮性のあるシリコン素材を加工することができたからねぇ。着心地はなかなかに快適だったよ。まぁ、中は蒸れるけどねぇ。
我輩の丁寧な表面仕上げによって、近づいて触らなければ本物の銅像と見紛う程であったしな……それに何より、学生たちにはバカ受けだったのである!
教授たちには理解されなかったようだがね。おかげでワタシが身の潔白を晴らすために犯人を見つけることを命じられてしまったのだからな。まったく、着任早々、面倒な話ではないか。
とはいえ、ハッキングの履歴を辿ってお前さんが俺の正体を突き止めるとは思ってなかったから、あの時は流石に驚いたけどねぇ。
あんなご丁寧な履歴が残してあったら嫌でもたどり着くというものだ。
いやいや、普通の教授連中じゃ、俺の残した足跡をたどることも、見つけることもできなかっただろう。それをお前さんは難なくやってのけたじゃないか。あれはちょっと嬉しかったのさ。だから俺は逃げも隠れもしなかっただろ?
逃げも隠れもしないどころか、爆乳学園長の恰好のままワタシの講義を受けに来たくらいだからな……
講義に遅れたフリをして、何食わぬ顔で登場した『爆乳学園長2号』の存在も忘れてもらっては困るぞ!
ああ、忘れられるものか。私の目の前に、2体の銅像が座って講義を聴いておるのだ。まったく悪夢のような時間だったよ。
だが、お前さんは涼しい顔で90分間、講義を続けたじゃないか。あの瞬間に悟ったのさ。こいつは俺達側の人間だってね。
フフ、なにせワタシの問いかけに的確な回答をできたのは、爆乳学園長1号だけだったからな。あんなに愉快な議論を、ニッポンの大学で交わせるとは思っていなかったから意外だったよ……まぁ、いろいろな意味でだがな。
そして、そのあとユーリーが我々の犯行をもみ消してくれたおかげで、退学にならずに済んだのは感謝しておるなりよ。
正直、ニッポンの学生は優等生過ぎてワタシにはつまらなかったからな。お前たちのような型破りな人間の方が、科学者としては非常に興味深かったのだよ。退学にするには惜しいくらいにな。
だからその温情に敬意を表して、お前さんのゼミに所属して研究を手伝ってやっただろ?
左様、我輩と世界という応慶大学のツートップを擁したユーリーのゼミは、まさに学園の至宝ともいうべき存在となったのである!
もっとも、オワリとイルカが所属したことで、ワタシのゼミには他の学生が寄り付かなくなってしまったのだがね……
その結果、俺達ジャッジメンが結成されたのだから、それはそれで良かったんじゃないのかい?
その通り! 爆乳学園長3号が誕生したことで『人類爆乳化計画』が本格的に始動したのであるからな!
爆乳学園長3号、か。まったく、あれこそ若気の至りと言わずして、なんと言おうか……
いや、随分とノリノリであったではないか!
男達の事件わ終っていた。
爆乳学園長のことは忘れようではないか。それに忘れられない事件といえば、まだ他にもあるだろう?
ま、まさかそれはジャッジメンが結成された最初の夏の怪事件のことであるか!? あの事件に関しては、今思い出しても身体が震えるぞ……ブルルルルッ!
ウム。あれは確か入学した記録のない謎の学生が大学のローカルネット上に在籍していたという不可解な事件だったな。
左様。ローカルネット上では確かに存在はしているが実体が無いことから、『幽霊女子大生事件』……略して『JD事件』などと呼ばれておったな。
JD事件? ワタシの記憶ではDJ事件だったのだが、JDだったのかね?
JDってのは女子大生の略さ。女子高生をJK、女子中学生をJCって言うだろ?
なるほど。相変わらずニッポン人は日本語をアルファベットに置き換えるのが好きだな。
あのJD事件は、我輩の調べによると応慶大学に合格したものの、入学式を目前に事故で亡くなってしまった女子大生の無念が、大学のローカルネットに取り憑き、その恨みから在学する学生に付きまとっていたとか……そう考えると、ちと可哀想でもあるが。
ワタシも最初は半信半疑だったが、講義中、教室のモニターに突然その女学生が姿を現した時は、流石に肝を冷やしたものだよ。
あのゴーストはいったい何者だったのであろうか? いつの間にか姿を消してしまったから謎だけが残っておるが。
ゴーストかどうかはともかくとして、大学のローカルネット内に存在していたのは事実だったからね、ワタシもその調査に駆り出されたよ。だが、調査をしている間に、忽然と姿を消してしまったのだ。まるで何の痕跡も残さずにな。
それこそまさにゴーストではないか!
きっと、彼女は成仏したのだろうさ。
そういえば、当時もオワリはそんなことを言っておったな? だが、あれは何らかのプログラム、人工知能の一種だというのが我々の結論ではなかったかね?
ああ。でも、人工知能が成仏したら何か問題があるのかい?
問題あるに決まっているではないか。何の外的要因もなく、プログラムが自動的に消滅することなどあるまい? ……まさか、あの事件もお前の仕業だったのか?
……それについてはあまり話したくないんだけどねぇ。
それは関与を認めたも同じだぞ?
なんと! まさかの罪の告白! というか世界も確か、事件解明の為にユーリーに協力しておった筈ではないか!? まさかの自作自演とな!?
いやいや、俺もまさかあの幽霊女子大生が俺の作ったプログラムだなんて思ってもいなかったんだよ。だって、俺がプログラムしたAIとは明らかにその外見も、行動パターンも違ったからね。
確かに、あのゴーストのグラフィックはかなり細身で、どこか病的な雰囲気を漂わせておったな。明らかにオワリの好みとは違うから、ワタシもお前のプログラムだとは思いもしなかったのだが……
あれは、ちょっと不憫な子でさ。もともとはあんな姿じゃなかったんだけど、どうやら一人の男子生徒に恋をしてしまったらしくてね……自分のプログラムリソースを書き換えて、その男子の好みの外見に整形したみたいなんだよ。
まさか! プログラムが、自分の意思で姿を変えたというのか?
自我と自己進化を願うプログラム……か。確か、そんな研究をしていたな、お前は。
そんなつもりじゃなかったんだけどねぇ。それに当時の俺の力じゃ、そこまで完璧なAIが作れたわけでもないしさ。気付いてやった時には、もうプログラムは修復不可能なレベルまで内部から破壊されていて助けようがなかったよ。それにあのまま大学のローカルネットに常駐していたら、サーバーレベルでの不具合を引き起こしかねなかったからね……
だから、世界が自ら成仏……消去してやったということか?
まぁ、そうするのがプログラムした者の責務なんだろうが、それもできなくてね。だから、彼女自身にその選択を委ねたんだ……自分で消滅を望むのなら、そうさせてやろうってね。生みの親としちゃ、最低な選択だよ。
だが、プログラムが自ら消滅を望むなど、そんなことはあり得ないだろう!?
まさか世界よ。その消滅プログラムというのは……
さぁて、俺の話はここまでだよ。それじゃ、そろそろ本日の本題に移ろうじゃないか!
本日の本題だと……?
ああ。それはもちろん俺達ジャッジメンが設立された目的でもある。
はて? 気が付けばお前たちが私の研究室に入り浸るようになっていただけで、なにか目的などあっただろうか?
それはもちろん、俺達の大いなる野望……日本経済の破壊に決まっているだろう?
なるほど……クックック。
ああ、そうだったな。
次項『男達の野望わ終っている。』へ続く